旅のエッセイ:ルーツを訪ねて 前編
2022-11-24


 小雨が降り出した。傘をさして、駅の近くを歩く。平日とはいえ、人の往来は少ない。チェーン店のイタリアンレストランや調剤薬局など、わが町にあるのと同じで、親しみを感じてひとりで笑った。

「のぼり屋」という地元のお店らしい和菓子屋さんがあったので、入ってみた。季節の栗を使った最中やお饅頭が美味しそう。

店の一角にモノクロの写真が並べてある。古い歴史がありそうだ。平屋の店舗の写真には、「昭和28年創業当時」と説明が添えてあった。

なんと、私の生まれる前の年だ。だったら、甘党の母はきっとこの店に立ち寄ったのではないだろうか。私の筋金入りの甘党も、この店にルーツがあるにちがいない。想像が膨らんで、やっと旅の目的が少しだけ果たせたような気分になった。

私のほかにお客さんもいなかったので、50代ぐらいの女性の店員さんに声をかけた。じつは……と、私が鈴蘭台にやって来たわけを聞いてもらった。

「私が生まれて最初に食べたあんこは、のぼり屋さんのお饅頭かもしれませんね」

「あら、きっとそうですよ」

 ふたりで笑った。旅先で見知らぬ人とおしゃべり。ひとり旅はこれが楽しい。母はよく、そんな私を、「すぐお友達になっちゃうのね」とあきれたものだった。

店員さんの話では、創業当時の店は町内の別の場所にあったそうで、この店舗は平成6年の大震災の後に、ここに新しく建てられたのだという。

 鈴蘭台にちなんで鈴音(すずね)最中という名の、可愛らしい鈴の形の和菓子をおみやげに買って、店をあとにした。

 

 午後からはオシャレな神戸、旧居留地の辺りを散策して、夕方から港の花火見物へ。

コロナ禍で3年ぶりに開催されるのは、5日間にわたって毎晩10分間だけという規模の小さな打上げ花火だ。それでも、生まれ故郷の神戸で、たったひとりで傘をさしながら見上げる花火が、とても美しくて切なくて、涙が出そうだった。

 

          (後編に続く)

 

☆ 旅のフォト ☆

 

▼大阪で開催されるコンサートというのは、藤井風くんのスタジアムライブ。ガンバ大阪の本拠地、吹田パナソニックスタジアムで、初めての開催だそうです。半端なく♪〓でした。

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