母は93歳、同じマンションの4軒隣りで独り暮らしを続けてきました。
健康で過ごしてき母に、今年3月、病気が見つかりました。進行性の胃がんでした。入院、手術、そして退院から3ヵ月。新しく看護付きの施設に通うようになりました。
病気をきっかけに、母は以前の生活がひとりではできなくなりました。
母の世話を背負った私は、暗いトンネルの中を手探りで歩いているような日々でした。
この本と出合って、ようやく光を見たような気分になったのです。
この本を紹介してくれたのは、同じマンションに住む友人です。家族ぐるみのお付き合いは四半世紀に及び、もちろん母のこともよくわかってくれています。そして、私の「読み友」でもあるのです。
私が母のことをこぼすと、まあ読んでごらん、とこの本を貸してくれたのでした。
伊藤比呂美さんは、詩人でもあり、エッセイや小説も手掛ける作家。イギリス人の夫や子どもたちとカリフォルニアに住んでいるのですが、熊本で独り暮らしをする80代のお父さんを、3年半にわたって遠距離介護をしてきました。毎月のように帰国しては、仕事をこなしながら熊本で暮らす。しかも、すごいのは、毎日毎日欠かさずにアメリカからお父さんに電話をしたことでした。
この本はその記録です。
私がこんなに付箋を貼りながら読んだ本も珍しい。
のっけからお父さんの言葉に釘付けになりました。このまま読み進んでしまうのがもったいない。あとでもう一度かみしめようと、印をつけずにはいられなかったのです。
赤い色の文字で書いた部分は、原文のままの引用です。
◇
あるとき私が、仕事が終わったよと言いましたら、父が「おれは終わんないんだ」と言いました。
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