昨年の春のこと、コロナが下火になったころ、友人たちと三島に1泊し、三島大社を訪れた。
社殿のそばに、錦の打掛姿の新婦と、紋付き袴の新郎がいた。でも結婚式ではなさそうだ。二人のほかに、地味なスタイルのカメラマンと助手らしき女性だけ。ああ、前撮りだ。
6年ほど前、娘夫婦も結婚披露宴とは別の日に、都内の公園で和装姿の写真を撮ってもらった。紅葉真っ盛りの季節で、赤い着物の娘はもみじの精のようだった。
通りすがりの人たちから声がかかる。
「きれいですね。おめでとうございます」
娘の幸せを願ってくれているのだ。「ありがとうございます」と答えながら、思わず涙ぐんだものだった。
その時から、どこかで新郎新婦に出会ったら私も祝福の言葉をかけてあげよう、と思っていた。
三島大社の慣れない衣装の二人は緊張しながらも、幸せそうに見えた。
「長引くコロナで結婚式もできなかったのね、きっと」
「やっと披露宴ができるようになったかな」
「記念写真だけですませるのかもね」
私たちオバサン組は、コロナ禍に愛をはぐくんできた見知らぬカップルについて、あれこれおせっかいな詮索に余念がない。
言葉をかけそびれているうちに、彼らは場所を替えるのか、どこかへ行ってしまった。
ホテルに戻ってくると、フロントにも和装の新郎新婦がいる。カウンターの背後の大きなガラス窓越しに、富士山がよく見えるのだ。
「あら、富士山をバックに前撮りね?」
今度こそチャンスを逃すまいと、去りぎわの新郎に声をかけた。
「おめでとうございます!」
「ありがとうございます」と、事務的な返事。
すかさず隣にいた友人に突っつかれた。
「本物じゃないってば。モデルの撮影よ」
「……あ!」
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