フロントには、不愛想なドレッドヘアのおにいさんがいた。ホテルマンには見えない。気軽に質問したら怒られそうだ。
狭い廊下で、スーツケースを転がすと、ずるずるとカーペットにしわが寄る。部屋も、従業員の部屋かと思うほどの安普請。カウンター下の冷蔵庫置き場は空っぽだった。さすがにフロントに問い合わせると、問題が多々あって撤去したという。無いほうがよほど問題だ。夜の外食は避けようと思っているのに、部屋でお水もワインも冷やせない。
これでもアメリカのホテルチェーンの名を冠した3つ星ホテルで、旅行会社にグレードアップしてもらったのだ。オペラ座から徒歩10分という地の利だけが唯一のメリットの、ハズレのホテルだった。
こんな時、一人じゃなかったら、さんざん愚痴をこぼし合って、運命を呪って、留飲を下げたことだろう。一人旅は、タクシー料金を一人で払うだけではなく、トラブルも悩みも怒りも、一人で背負って飲みこんで、一人で解決するしかない。
「古希の大冒険に行ってまいります」などと息巻いて、自分を鼓舞して、パリにやってきたのだ。カヨさんと合流するまであと3日、何とか楽しい一人旅にしよう。このホテルだって、トイレやシャワールームはきれいだし、目をつぶれば寝心地も悪くない。そう思いなおして眠りについた。
翌朝は、真っ青なパリの空が、私を見下ろしていた。
さあ、9年ぶりのパリの街に出かけよう!
▼ホテルからオペラ座まで歩いて10分。残念ながら、改装中なのかシートがかけられていた。巨大なBOSSのペッカムが、オペラ広場を見下ろしている。
マドレーヌ大通りをまっすぐ歩いてきて、本日最初の目的地に到着。オランピア劇場だ。藤井風くんが2週間後にやって来て、ここでライブを開催する。
昨年秋の上海公演の時も、私はたまたま上海赴任中の娘を訪ねて、先に来てしまった。しかたなく会場を外から下見して終わったのだった。その時も同じ2週間違いだった。そして今回も中には入れない。▼
セコメントをする